[レポート]AWSを活用してゲーム開発環境をクラウド化する5つのメリット #CEDEC2021 #classmethod_game
2021年8月24日(火)〜8月26日(木)の3日間にわたり、ゲーム開発者の祭典「CEDEC2021」がオンラインで開催。約200のセッションが実施されました。この中から、セッション「AWSを利用したゲーム開発環境のハイブリッドクラウド化」をレポートします。登壇者はアマゾン ウェブ サービス ジャパン社のソリューションアーキテクト・長田義広氏です。
ゲーム開発環境クラウド化の利点5つ
AWS上のゲーム開発環境を活用で以下のメリットが得られると長田氏は語ります。
- セキュリティとスケーラビリティ
- タレントプールの開放
- コラボレーションの拡大
- 予算の改善
- 柔軟な働き方
知的財産権の安全と柔軟なスケーリング
セキュリティについては、知的財産を開発者の自宅にある各PCに分散させるのではなく、クラウド上の安全で管理されたマシンなどに保存できるメリットがある、と長田氏。マンガ・アニメからゲームに展開する場合など、IPが鍵を握る業界ならではのトークでした。
さらに拡張性の面では、バージョン管理システムのストレージ拡張、レプリカを簡単に起動できるなど、物理サーバーの調達が必要となるオンプレミスより迅速かつ柔軟なスケーリングが見込めるとのこと。
世界中のアーティストがAWSにアクセス
次に長田氏は、「タレントプールの開放」と題し、ゲーム開発に関わるアーティストがどの国や地域に拠点を置いていても、AWSが持つリソースへアクセスできる、というAWSの強み *1を説明しました。
使いたい分だけのコストで使える
必要な時に必要なだけリソースを割り当てられ、無駄な計算資源にコストを払わないため、予算を改善できる。ここは長田氏のさらっとした解説ではありましたが、使わなくても固定のサーバーを契約しなければならないオンプレミスとの違いが際立ちます。
コラボレーションの拡大
さらに、様々な契約形態のパートナーとAWS上の開発環境を共有し、連携できる利点を伝える長田氏。AWSなら職権に応じた細かい権限管理が可能です。
柔軟な働き方へ
そして、毎日スタジオに通う必要はなく、スタジオと自宅の半々、もしくは完全在宅で仕事ができるようになる、と長田氏は強調しました。
誰がクラウドの恩恵を受ける?
クラウド化のメリットが明確になったところで、長田氏は具体的に恩恵を得られるのがどこに所属する誰なのか解説します。オフィス型スタジオやバーチャルスタジオにいて、プログラマやビジュアルアーティストなど様々な職種で活躍する方に恵みがあるとのことです。
クラウド化の検討要素
ここまで、ゲーム開発環境のクラウド化が幅広い職種やスタジオに福音をもたらすことが説明されました。しかし、長田氏は言います。必ずしもすべてのシステムをAWS上に移すわけではない、と。むしろ、クラウドとオンプレミスのハイブリッドが一般的なシナリオなのだと。
アーキテクチャの例
では具体的にどのようなアーキテクチャやワークロードが採用されているのでしょうか。
【Gearbox】データをEFSへ格納し在宅勤務に対応
長田氏は、オンプレミスのPerforceサーバーからAWSにデータを移行するバージョン管理システムの例を最初に挙げます。在宅勤務への対応で、データをAmazon EFSに格納。PerforceサーバーをマルチAZで冗長化しています。Gearbox社の事例でした。
【Apocalypse Studio】ビルドの所要時間が6〜7時間→20分に
GitリポジトリをS3にアップロードし、EC2上にGitサーバーを立ち上げたApocalypse Studio社では、6〜7時間かかっていたビルドが20分で完了し、コストはビルドあたり2USDに収まったとのこと。ここまでインパクトのある数字が書ける事例記事は貴重に感じますね。
【余剰リソース活用でコストカット】Jenkinsによる汎用ビルド
次に、Jenkinsによる汎用ビルドの事例。長田氏曰く、AWSが持っている余剰の計算リソースを活用することで、大幅な割引価格での利用が可能になります。Spotインスタンスはいつ何時、AWSの権限で停止されるかもしれません。なので、もし停止されてもリトライすれば問題ない、ビルドパイプラインのようなワークロードでの利用に適しています。
【Macインスタンス】UnityによるiOSビルド
さらに、iOSアプリの構築に必要なmacOSをクラウド上で提供する、EC2 Macインスタンスを活用してビルドを行う構成の例が紹介されました。長田氏の視線は、ビルドの効率化を目指すソーシャルゲーム開発者の方向を向いていたとかいないとか。
【Riot Games】パイプライン全体をAWSに統合
長田氏によれば、実際にLegends of RuneterraチームではMacインスタンスを利用してビルドパイプラインをAWS上に統合しました。
Unreal Swarmによるライトビルド
計算処理を分散するためのシステムとして、Unreal Swarmを取り上げる長田氏。Auto Scaling group内にSwarm Agentsを配置することで、作業量に応じてスケールイン、スケールアウトできるとのこと。
【コスパ最大40%UP】Graviton2のサポート強化
Epic Games社とAWSが協力し、Unreal Engineに対するAWS Graviton2インスタンスのサポートを強化した事例では、最大40%改善したコストパフォーマンスを利用できる状態になった、と長田氏は強調しました。一つひとつの数字に強さがあります。
【検証して選ぶ】3つの仮想ワークステーション
在宅でゲームを開発できる環境の整備には、高性能な仮想ワークステーションが求められます。そこで長田氏は、仮想ワークステーションの要件を確認。アーティストなら色の正確さ、デザイナーならコントローラー接続など職種により重視する点が異なるとのこと。
仮想ワークステーションの具体的な選択肢として長田氏は、Parsec、Teradici、NICE-DCVの3つを挙げ、要件とのマッチングをテストで検証する必要性を述べました。ParsecとNICE-DCVはクラスメソッドのエンジニアが検証を行い、ブログにまとめています。
Parsecの記事一覧
NICE DCVの記事一覧
アーキテクチャのお悩みはアマゾン ウェブ サービス ジャパンまで
最後にサマリーを述べた長田氏は、「アーキテクチャにお悩みの際はぜひ弊社(アマゾン ウェブ サービス ジャパン社)までお声がけください」でセッションを締め…ません!
【セッション紹介】ゲーム開発環境のクラウド化
ここで、クラスメソッドのセッション *2をご紹介いただきました。AWSを活用したゲーム開発環境のクラウド化をテーマに、分散処理ツール「Incredibuild」によるビルドの時短をデモでお見せする内容です。アーカイブ動画を公開中。
以上、25分間のセッションでした。
ゲーム開発環境は専門家にお任せ
長田氏が語るゲーム開発環境クラウド化のメリットや事例には、広く知られているクラウド活用の恩恵にプラスして、知的財産を守るセキュリティや職種による要件といったゲーム業界向けの勘所が散りばめられていました。大手ゲーム会社の90%がAWSを選んでいる *3理由がよくわかるセッションと言えます。
ゲーム開発環境でAWSを活用したいが、エンジニアやノウハウの不足に悩む方は多いかと思います。DevelopersIOブログなどの記事から知見を吸収したり、クラスメソッドのゲーム関連サービス利用、AWS Game Techさんに相談するなど、各技術や業界の専門家によるサポートを検討してみてはいかがでしょうか。
脚注
- 2021/08/31現在、245の国と地域でサービスを提供(AWS グローバルインフラストラクチャより抜粋) ↩
- クラスメソッドはアマゾン ウェブ サービス ジャパン様と同じく、CEDEC2021にスポンサー出展しました。 ↩
- AWS Game Tech ↩